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1位を取った不二リョ小説です。■投票結果

骨まで愛して1 2002.8.7


 今年もこの季節がやって来た。
 例年通りの猛暑で、東京に至ってもここしばらくムシムシとした真夏日が続いている。日本の夏はジメジメしてるから嫌いとリョーマは言う。

 不二はそんなリョーマを見計らい、それなら海に行こうと軽い感じで誘ってみた。偶の休日を僕と一緒に過ごしてみる気は無いかい?と、一言付け加えて。


 リョーマは案外あっさりとその誘いを承諾し、そして今日。約束のこの日を迎えたのだ。曇りの予報を出していた天気予報とは裏腹に、真っ青な空からはサンサンと眩しい陽が照っていた。


「やぁ、越前君。おはよう」

 先に待ち合わせ場所である駅に着いていた不二は、いつも通りの穏やかな笑顔でリョーマを迎えた。
 そして、朝日を真っ向に受け眩しそうに目をしかめながら、クイっと帽子を目深に被り、いつも通りのリョーマの素っ気無い挨拶。

「どーも」

 そんな寝ぼけ眼のリョーマを気に留めることも無く、不二はいつものように話し始める。二人はホームまでの道のりをゆっくりと進んで行った。

「クス。今日はまた一段と暑くなりそうだね」
「朝からこの日差しじゃね」
「せっかく休みを満喫しようとしてるのに、行く前からこれじゃ部活のトレーニングと一緒だよね」
「まぁいいんじゃないの?部長とか乾先輩が喜ぶよ」
「クス。今日は乾汁も無いけどね」
「無くて万万歳っスよ」
「うーん。あれ美味しいのになぁ」

「・・・あいにくだけど、俺飲む気更々有りませんから」
「クス。じゃぁ賭けをしようか?砂浜に刺した木の枝を先に取った方が勝ち。君が勝ったら僕が何でも言うことを聞いてあげるよ。で、僕が勝ったら君は野菜汁を飲まなくちゃいけない。どう?」
「いいっスよ。俺負けませんよ。不二先輩こそいいんスか?ホントに何でも聞いてもらいますからね」
「クス。もちろんだよ」


 お互い自信を満ち溢れさせ、そうこうしているうちに急行電車がホームに入って来る。

 ここから目的地まではこの下り車線の急行に乗り、途中で海方面へ向かう電車に乗り換える必要があった。
 二人は目の前のそれに乗ると、空いている座席のシートに腰を下ろした。


 普段なら混んでいる車内も、朝のラッシュ時よりかなり時間が早かった為か、僅かに席が埋まっている程度だった。夏休みということもあって、所々家族連れの姿も見受けられる。
 車内は冷房が効いていて、むしろ肌寒いくらいだったが、外の外気にずっと晒されていた二人にはそれも涼しく感じられた。

電車は目的地を目指して線路を駆け抜けていく。

「俺、日本の海って初めてかも・・・」
「へぇ。そうなの?」
「うん。小さい頃一度日本に帰国したことがあって、その時親父に連れてって貰う予定だったんだけど・・・」
「行かなかったの?」
「なんか俺が熱出しちゃったとかで」
「せっかくの機会だったのに残念だったね」


「だから今日、何気にちょっと楽しみだったりするんだよね」

 そう言うと、リョーマは微かに笑みを溢し、窓の外に顔を向けた。
 不二は何を言うでもなく、ただ窓の外に目を向けるリョーマを穏やかな表情で見つめていた。



 電車が停車駅を幾度か通過し、乗車してから10分程度経った頃、不二は今だ窓の外の景色を眺めるリョーマに声を掛ける。

「そろそろ乗り換えだよ」
「うぃ〜っス」
「あと2駅くらいかな?で、乗り換えてあとはしばらく乗ってるだけ」
「じゃぁ寝てても平気っスか?」
「うん。やっぱり君に早起きは辛かったかな」
「さすがに部活より早く起きないといけないとなるとね」
「クス。乗り換えたら寝てていいよ」

「・・・言っとくけど寝顔とか勝手に写真撮らないでよ」
「まぁ気づかれない程度にね。クス」
「ほーんとイヤな先輩」
「あはは。何とでも言って」

 相変わらずなやり取りが続いているうちに電車は都心を離れ、乗り換え地である中堅駅に着いた。電車が何本も通っているような大きな駅ではないが、改札口を抜ければそこそこ繁栄している土地だ。
 二人は荷物をまとめ、急行電車を後にする。

「さて、と。ここから4番線に乗り換えて、各駅で行けばいいんだよね」
「4番線・・・あぁ、あっちっスね」
「あっそうだ。何か飲み物買って行ってもいいかい?」
「うん。俺もなんか欲しいし」


 駅構内にあるコンビニでお互い飲み物等を調達すると、乗り継ぎ電車のホームへと足を進めた。

「あっ来てるよ。あれ?普通の電車と違うんだね」
「え?あぁ、座席のこと?こういった郊外の電車は個別シートになってることが多いんだよ」
「ふーん。そうなんだ・・・」
「僕も旅行なんかはいつも車とかだし、こういうのはほとんど乗ったことが無いんだけどね。たまに遠征試合とかで田舎の方に行くと見掛けるよ」

「じゃぁ俺もこれからは乗ったりするんスね」

「クス。そうだね。でも僕達3年は引退も近いし、一緒に乗ることはもう無いかもね」
「じゃぁ普段乗ればいいじゃないっスか」
「フフ。一緒にまた乗ってくれるの?」
「不二先輩が嫌じゃなければね」

「むしろ嬉しいよ。そうだね。なら今度はどこに行こうか?」

「何処へでも?」

 常に相手に挑戦をしかけるようなリョーマの笑顔は、スリルを求める不二の心をより引き付けた。


「クス。それじゃ奈落の果てまで・・・なんてね」
「いいっスよ。どこへだって俺は先輩に着いていきますから。何なら手となり足となり、いつでも不二先輩をサポートしますよ?」

 リョーマが冗談っぽくそうこぼすと、二人はお互い顔を見合わせて笑ってしまった。


「あはは。越前君、本当にその気ある?」
「ハハっ・・まさか。そんなの勘弁願いたいね」
「クス。それは残念」
「でもまたお呼びがあればお供しますよ」
「本当かい?」
「まぁね。海とかそういうところは嫌いじゃないし」
「それは意外だね。いつもは連れまわすと文句言うのに」
「それは俺が興味無いことだからでしょ。それとこれとは別」
「クス。本当うちのルーキーは一筋縄じゃいかないよね」
「それはあんただって。あの時の勝負、まだついてないんだし今日決着付けます?」

 一瞬間を置いて不二が返す。

「あぁ・・・それは楽しみだね。いいよ。勝ってみせてよ」


「もちろん」

 リョーマは強気な笑顔を不二に見せながらそう言い残し、背を向け停車中の車内に乗りこんで行ってしまう。

 その直後、発車を知らせるベルが鳴り出した。
 しかし、不二はその音に慌てて乗車する様子も無く、その場に経ち尽くしたままだ。


「そう簡単に僕を倒せると思ったら大間違いだよ、越前」


 リョーマの居ないホームで、不二はキリっと目を見開いて独り言のように呟く。



 その間も、ホームからは発車のベルが鳴り響いていた。


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