骨まで愛して4 2002.8.27



 目的地である駅に着くと、二人は電車を降り、早速海岸へと足を向けた。
 降車客は二人の他に家族連れのファミリーが一家族居るだけだった。

 降りた先は小さな駅では有るが、海へと続く道には土産屋や、海用品店などが並び、田舎特有のまるで時間を忘れさせるような、ほのぼのとした雰囲気が立ちこめていた。

 ずっと海外生活だったリョーマは物珍しそうに目をキョロキョロさせる。時折立ち止まっては、店先に並ぶ商品を手に取ってみたりもした。
 連れの不二はそんなリョーマを微笑ましく思い、しばしリョーマの寄り道に先を急ぐことなく一緒に付き合う。

 しばらく歩くと、”海まであと100m”という看板が目に入った。辺りからは潮の匂いがそこまで漂って来ている。

「もうすぐっスね」
「クス。楽しみかい?」
「うん。正直試合前くらい楽しみかも・・・」
「あはは。それはすごい期待感だね」
「なんかガキみたいってバカにしてんでしょ・・・」
「クスクス。そんなことは無いよ。僕だって楽しみだもの」
「へぇ。先輩がこんなこと言うなんて珍しいね」
「そうかい?だって君と一緒に海に行けるなんて、これ程楽しみなことは無いだろう?」
「まぁ当然でしょ」
「クス。思いっきり楽しもうね、越前くん」
「っス」

 しばらく歩くと、ようやく海へと続く階段が見えてきた。リョーマはタッと駆け出し、不二は歩いてその後を追う。

 走り出したリョーマの目には真っ青なブルーの海が写った。
 有名観光地でもなければ、普段は地元の人間くらいしか寄りつかないその海岸は、まだ人に荒らされている形跡も無く、本当に澄んだ色をした海と、真っ白な砂浜が広がっていたのだ。

 リョーマは砂浜にしゃがみこみ、何かを口にすることも無く、ただ一面に広がるその海をじっと見つめていた。
 波のザザーっという音だけが静かにその空間に響くだけだった。

「リョーマくん」
「あっうん。ゴメンね」
「感動した?」
「あんな静かな海見たこと無かったから」
「夕暮れ時はもっとキレイだよ。僕的には夜の海もお勧めだけどね」
「あぁ良さそう」
「まぁそれは置いといて早速着替えようか」
「うぃーっス」

 二人は海の家の近くにある更衣室に向かう。とは言っても小さなプレハブ小屋なのだが、人気の少ないこの海岸には丁度いい大きさなのかもしれない。

「あれ、越前くん。前より筋肉ついたんじゃない?」
「えっそうっスか?」
「毎日あれだけハードな練習してればつかないはずも無いけど」
「先輩はそれ程でも無いっスよね」
「僕かい?元々体型的に恵まれてる訳じゃないからね。それに僕がタカさんみたいに筋肉質だったらおかしいだろ?」
「ブブっ・・絶対おかしい・・・」
「あっ笑ったな」
「ハハッ・・もうおかし過ぎっスよ、不二先輩・・・」
「笑い過ぎだよ、ちょっとっ・・!」
「だっだって・・不二先輩の顔でマッチョだ・・なん・・・ブブっ・・」
「・・・もう越前くんなんて知らない」

 さすがの不二もここまで笑い者にされると、たまったものではない。リョーマを置いて外に出てしまった。

 慌ててリョーマは後を追うが不二はもうずっと先だ。リョーマは走って追いつこうとした。そして不二の近くまで来ると、不二の肩に飛び乗るようにして抱きついたのだ。

 その瞬間、リョーマは不二のあることに気が付いた。

「あれ?先輩意外に筋肉ついてない?」
「越前くん・・・もう笑いは治まったのかい?」
「うん。ねぇ、先輩実はがっしりしてるんじゃん」
「そうかな?」
「うん。だって腕とか硬いよ?」
「元々線が細いからそう見えるのかもね」
「あぁそっか」
「でも越前くん、いつもあんなに僕にしがみついといて今まで気付かなかったの?」
「え?何のこと言って・・ブッ!!」
「どうなの?」
「だってあん時は俺、そんな余裕無いっスよ?」
「ふーん・・まぁいっか。あそこで浮き輪でも借りようか」
「ねぇ先輩。朝の勝負のこと忘れたわけじゃ無いっスよね?」
「クス。もちろん。でもせっかく海に来たんだからまずは海のほうが先だろ?」
「っス。了解」




 二人は思う存分海を楽しんだ後、浜辺に上がってくると荷物を置いていた場所に戻って来て、身体を休めるためにも休憩することにした。

「はぁ楽しかった」
「クス。もう少し休んだら勝負しようか?」
「いいっスね」
「にしても本当気持ち良いね」
「うん・・・このまま俺寝ちゃいそう」

 穏やかな空気が時を忘れさせ、静かな波の音が更に心地良い雰囲気を作り出す。
 寝るつもりは無かったのに、二人はいつのまにか夢の中だった。

 他の観光客の声が僅かに響くが、二人は日々のハードな練習から開放され、しばらくゆっくりとした空間でつかの間の夏休みを十分に満喫していた。

 本当に穏やかな時間がゆっくりと過ぎていく。


 先に目を覚ましたのはリョーマだった。
 横を見ると不意にも不二は今だ眠ったままだ。

「あーらら・・不二先輩が隙を見せちゃっていいんスか?」

 リョーマは意外な不二の姿に少々驚きながらも起こすことも無く、目下に広がる海を眺めている。
 それでもまだ不二は起きてこようとはしなかった。


 数十分が過ぎた頃だろうか。
 ようやく閉ざされていた不二の瞼はゆっくりと開いていく。

「んっ・・・何だ、寝ちゃったのか・・・」
「どーも」
「あ、もしかしてずっと起きてた?」
「クス。不二先輩の寝顔たっぷりと見させてもらいましたよ。寝てる先輩可愛かったっス」
「クス。越前くんに隙見せちゃったなぁ。借りは勝負で返させてもらうよ。越前くん」
「望むところっスよ」

 そして、不二が起きてきたところで約束のフラッグならぬ木の枝での対戦が始まった。
 二人の笑顔はお互い勝利への自信が満ち溢れていた。


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