X'mas Kiss1 2002.11.29



 12月・・・不二裕太は壁に掛けられたカレンダーを捲るとふぅと軽く溜息を付いていた。

「もうそんな時期か・・・」
 赤いペンで丸をつけられたその日付に、様々な思いが交差する。気付けば年の瀬、もうすぐクリスマスだった。

「家、帰らないとやっぱ母さん寂しがるよな・・・」

 クリスマスは毎年いつも家族で祝って来た。今年は俺が寮に入ってしまったし、毎日顔を合わせていたあの頃とは訳も違う。

 年に一度しか無い大事なイベント。
 帰らなければきっと母さんは悲しむ。

 姉貴に至ってはきっと男の所なんだろうけど、周助は…少しでも俺の帰りを待ってていてくれるだろうか。一緒に祝うことを望んでくれているのだろうか…カレンダー越しにそんなことを思う裕太だった。


 横のベッドにドスッと倒れ込み、昔の記憶を辿る。
 毎年クリスマスが近づくと、一緒にサンタクロースへお願い事をし仲良くケーキを分け合っていた幼い兄弟。

 いつだって二人は一緒だった。優しくて何でも知ってる一つ上の兄は自分の自慢でもあった。
 
どんな時も俺のことを守ってくれた周助。そんな時、小さな背中がとても大きく見え、凄く安堵したのを覚えている。

「周助、元気にしてるかな・・・」
 懐かしい思い出をふと振り返ると、妙に相手のことが気に掛かるものである。裕太もまた例外では無かった。

「たまにはこっちから電話でもしてやるか・・・」
 母親から渡されていた携帯電話のメモリーを辿って彼の番号を探し出す。止まった画面には『周助』の文字。携帯片手に裕太は離れ離れに暮らしている兄へと電話を掛けた。

 いつもの呼び出し音が、今はとてつもなく緊張を誘っていた。裕太の思いを余所に、数回鳴って電話は繋がってしまった。
 裕太は気恥ずかしい気持ちを堪え、彼に話し掛ける。

「あ、もしもし…俺だけど」
「クス、どうしたの?裕太から掛けてくるなんて珍しいじゃない」
「何となく…掛けてみただけだよ」
「そう、でも嬉しいよ。ありがとう」
「あのさ、周助…」
「ん?」
「クリスマスのことなんだけど…」
「そうか、もうそんな時季だもんね。で、帰って来るんでしょ?」
「そのつもりだけど…」
「だけど?」
「あっ、いや・・帰るよ、うん」

 ベッドに横たわり、電話越しに聞こえる周助の穏やかな声に、裕太は妙な安心感を感じていた。

 久しぶりに聞く兄の声。

 一人で過ごすのにも慣れたけど、裕太自身、心はまだ義務教育を終えていない中学生そのものなのである。時々家族が恋しくなるのも仕方無い。

 それを察してか、周助が弟に問い掛ける。
「クス、何かあった?」
「え…そんなんじゃねぇよ」
「そう?ならいいけど」
「ちょっとさ、毎日一人で居ると寂しくなんだよ、時々。昔のこと思い出してたら兄貴の声聞きたくなって」
「裕太……」
「別に毎日が楽しく無い訳じゃ無いぜ!?ただ、たまに妙に家族が恋しくなるって言うかさ…」
「そういう時は構わず僕に電話しなよ、話し相手になってやるから」
「ん…ありがと、兄貴」

 裕太は照れ笑いし、少しばかり恥ずかしそうに身体を丸めた。
 顔は見えないけど、電話の向こうで昔のように周助が優しく微笑んでいてくれるような気がして。

「クリスマス、裕太に会えるの楽しみにしてるよ」
「うん」
「姉さんにもラズベリーパイ頼んでおくからね」
「あぁ、期待してる」

「そうだ、裕太。今度空いてる日に父さんと母さんへのプレゼント選び、見に行こうよ。姉さんにも言っておくからさ」
「そうだな、今年は何しようか?」
「うーん…また皆で相談しなくちゃね、クス」
「じゃ、また今度な」
「うん、おやすみ。おやすみ、裕太」
「ん、おやすみ」

「じゃぁ切るね」
「あぁ」
「……裕太から切ってよ」
「周助が切れよ」
「裕太からっ」
「周助だろ?」

「クスクス…せーので切ろうか」
「だな・・これじゃキリねぇ」

 次の瞬間、二人同時にツーという電話の途切れた音が聞こえていた。


 途切れた電話をポンっとベッドの上に投げると、今度は少し嬉しそうに再びカレンダーを眺める裕太が居る。
 周助もまた、弟からの電話に嬉しい思いを抱いていたのだが、裕太がそれを知ることは無論無かった。


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