祭りの音色3 2001.8.12




「おい、待てよ!海堂っ!!」
「着いてくんじゃねぇ!ホモ野郎!!」
「着いて来るなと言われても俺も帰りこっちなんだよ」
「…」
「海堂ってば、おい!!…薫!」
「…名前で呼ぶなっ!!気持ちわりぃ!!」

 先程からご覧の通り、祭りで賑わう人込みを掻き分けていきながら桃城と海堂の言葉返しは続いていた。
 大声で、それも半ば怒鳴りあっているかのように会話する二人のやり取りに、周囲の人間も何事かと当然の如く振り返っている。事実、今本人達にはそれどころじゃないにしても、桃城と海堂にはかなりの視線が集中しているのである。


「だーから、待てって!とりあえず止まれってば!!」
「…」

 桃城の言葉通り、海堂はその場でピタリと立ち止まった。
 すると、前を追い掛けていた桃城は、急に立ち止まった海堂の背中にぶつかることとなる。

「ぉわっぷっ!!お前急に止まんなよー!!」

「貴様が止まれと言ったんだろうが!」

「そりゃそうなんだけどよ。とにかくそこら辺座ろうぜ」

 桃城は不機嫌な海堂を促し、人の通りから少し離れた草の茂みに移動した。
 海堂も喧嘩ばかりしてるこいつと二人きりで話しなんかするのは決して心地良いものじゃなかったが、とりあえずと近くに座り込む。
                                          しゃく
「まぁなんだ。アレだ。せっかくの夏祭りなんだし、このまま帰るのも癪だろ。
お互い仲良くしようぜ」

「部長達に見つかったらどうすんだよ」
「その時はその時だよ。メインは屋台と矢倉だろ。そっから離れてりゃバレねぇって」

「てめぇはいい加減すぎんだ」
「お前が心配すぎなんだよ」

「てめぇだ!」

「…分かったよ、そういうことにしといてやるよ。仲良くやろうって言っただろ?」

「チッ…」

 いつもはここで反撃に繰り出す桃城なのだが、今日は夏祭りである。せっかくここまで来たのに、専ら部長の言いつけでこのまま”はい、そうですか”と帰る気分でもなく、海堂に対してもかなり寛大になっていた。
 そんな桃城に、恨めしさと自分の不甲斐なさを感じざるを得なかった海堂は、自分に対して舌鼓を打つ。


「まぁよ、俺達は俺達で楽しもうぜ。薫ちゃん」
「オイてめぇ、名前で呼ぶなと言っただろうが!!」
「いいじゃねぇか、にしてもお前に似合わねぇ名前だよな」

「知るかっ親達が勝手につけたんだよ」

「乾先輩はお前のこと名前で呼んでんだろ?」

「…てめぇには関係ねぇ…」
                   
 海堂は乾の名前を出されて下を俯いた。
 薄っすら頬と耳が赤くなっているのは屋台の明かりで分からなかったが、それでも桃城の言葉に照れている感じは伝わって来る。

「ブッ!お前照れてるだろー!?かっかっかっ初いやつ」

「うるせぇっ!!」

 耳まで真っ赤にして反抗する海堂に、もはやいつものような圧迫感はない。
 桃城はそんな海堂のことを楽しんで見ていた。


「いいじゃねぇか。好きなんだろ?乾先輩のこと」

「…」

 海堂は横を向いたままで、何も答えなかった。
 たぶん、恥ずかしさで答えられなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。


「俺も越前好きだしよ。お互い様じゃねぇか。なぁ?」
「俺とお前を一緒にすんじゃねぇ」
「好きなくせに。そう照れるなって!」

 桃城はそう言うと、嬉しそうにニヤニヤしながら海堂の肩をポンっと叩く。
 いきなり突然桃城に肩を叩かれ海堂はビクッと肩を振るわせ、驚いた様子で桃城を見た。


「あっ…と。わりぃ。驚かしちまっ…た?」
「そんなんじゃねぇよ」
「じゃぁ何だよ。そんなに俺が嫌いか?」

「別に…」

「そっか。俺も別にお前のこと嫌いじゃないぜ。そりゃ、いつも喧嘩ばっかりしてるけどよ。これでもいい仲間だと思ってんだ」

「…」

 海堂はまた下を向いた。そして、また少し顔を赤める。桃城側からだと丁度海堂の顔が屋台の明かりで照らされて、気づくはずもなかったのだが。



 そんなことを知ってか知らずか海堂は小声でボソリと呟く。
「…俺だって…」
「んっ?なんか言ったか?」

「別に」

 海堂の発した微かな音は、大音量の音頭と祭りで賑わう人々の声とで掻き消されて桃城には聞こえなかったようだ。

 しかし、海堂のそれは明らかに本音だった。今だ、下を俯いたままなのだから。赤く染まる自分の顔を垂れる髪で隠そうとしているのは目に見て取れる。
 そんな海堂を横目で見て、桃城は徐に立ちあがり後ろを軽く叩くとこう言う。

「ちょっと待ってろよ」
「えっ・・・?」


 海堂は桃城を見上げた。
 すると、桃城は海堂に向けてニっと笑って人込みの中に消えていった。




 桃城が一言残しどこかに消えてしまったので、海堂は大人しく屋台側の人並みをボーっと眺めていた。何をする訳でも無いが、人間観察は面白い。

 色とりどりの浴衣を着た女性達、自分と同年代の髪を染めた輩達。目移りしてしまう辺りの屋台に視線が揺らぐ子供が迷子にならないようにと手を繋いだり、抱えたり、または肩車をしている大人達。カップル。など。
 ただ、目の前にいる人間を見ているだけなのだが、それだけで桃城が戻って来るまでのその間、充分時間は潰せた。


 暫くすると桃城が焼きそばを二つ両手に抱えて戻って来た。
「ホラ、腹減ってねぇか?んっ」
 そう言うと桃城は海堂に持っていた一つを差し出す。

「あっ…金。幾らだ?」
             おご
「あぁいいって。俺の驕りだ。有難く食えよ」

「サンキュ…」

 海堂は隣に座り込む桃城をチラッと見ると軽くお辞儀をして、湯気のたっている焼きそばに箸を進めた。
 その食べ方といい、海堂がかなりの良家の子供であることが伺える。一方の桃城は、豪快に音をたててすすりながら麺を口に運んでいた。

「汚ねぇなぁ、音たてんなよ」
「っんだよ、お前が坊ちゃんすぎんだ。あぁあぁやだねぇ、これだから世間を知らないお坊ちゃんは」

「んだとコラ。やるのかよ!?」
「冗談だよ、ジョーダン。ここで喧嘩しちまったら元もこうもねぇじゃねぇか。悪かったな」

「…もういい。食えよ。冷めるぞ。」
「分かってるって。さっきいいとこ見つけたんだ。食ったら行こうぜ」

「…?あぁ…」





 桃城は海堂の食べ終わるのを見計らって、両手を合わせてごちそうさまのポーズをする海堂の腕を無理やり掴んだ。

「何すんだよ」
「食ったら行こうってさっき言っただろ。早く行かねぇといなくなっちまうんだよ」
「あぁ?お前どこ行く気なんだ?」

「いいからいいから」


 桃城は笑顔で嬉しそうに海堂の腕を引っ張り、人込みの中へ駆け出していった。
 訳も分からず桃城に引っ張られて、走るしかない海堂はとにもかくにも、前を進む桃城に着いて行くしかない。


 途中、屋台の並ぶ通りから脇道を抜けて少し行くと、月明かりで照らされる向日葵畑と、鈴虫の透明感のある音が響いている広い原っぱに抜けた。



「ホラ、めっちゃキレイじゃねぇ??」

「すげぇ…」

「こんなとこまだ残ってたんだよなぁ。鈴虫なんて今滅多に聞こえないぜ」
「あぁ…」
   
 海堂は目を瞑って静けさの漂うこの場所で、唯一聞こえるその透き通った音に耳を済ましている。
 そしてゆっくりと目を開けたそのと時だった。


 いきなり海堂は桃城の顔が目の前にあることに気づき、唖然となる。
 不覚にも突然この男に口を奪われてしまったのだ。

     
 桃城は目を瞑っている。海堂はただ呆然とするしかなかった。言葉も出ない。どうしたらいいのか分からず、混乱するばかりだ。
 ただ、自分の身体で起こっているそれが紛れもない事実であるのは確かだった。


 桃城が自分の口から唇を離すと、海堂は手を口にやった。
 確かに今、ここに桃城の唇があった。まだ生温い感触も残っている。


「どうしてこんなこと…」

「っ…!!俺にもわかんねぇんだよ!!海堂が目瞑ってて、気づいたらキスしててよぉ…別に、別に俺。お前のこと好きとかそういうんじゃねぇんだよーっっっ!!」

「っ…!!気持ちわりぃこと言うんじゃねぇよ!!」
「なっなんなんだよ、これ!!」
「俺が知るかよ!俺に聞くな!!」

「はぁ…もう……」


 海堂は顔が真っ赤だった。
 頭を抱えてこの状況に悩む桃城に対して苛立ちも感じていた。

「とりあえず今のはなしだ。忘れよう…それしかねぇ」
「お前はそれでいいのかよ…」

「いいって何が」


「その…俺にキスされて何ともねぇのかって…」

「何ともねぇわけねぇだろうが!!だいたい貴様がこんなばかげたことしなけりゃ済んだんじゃねぇか!!」

「知らねぇよー!!俺だって好きでキスなんかしたんじゃねぇんだから!!」



「チッ…ったく何なんだよ…」
「おい、お前俺にキスされて嫌だったか…?」

「はぁ…!?何言ってんだ、おま…んっ…!!」


 次の瞬間だった。またしても目の前に桃城の顔がある。
 今度は急いでその顔を剥がした。


「くっ…!やめろよ!!」
「ごっごめん…」
「訳わかんねぇ。俺は帰る!!」

「まっ待てよ!!…かっ薫!!」




 名前を呼ばれた。名前を呼ばれた。名前を呼ばれた・・・!?


 気が動転している海堂は凄い形相で桃城の方を振り返った。
 するとそこにはまたしても両手で頭を抱えて座り込む桃城の姿がある。


「おい…桃城」

 海堂は桃城の名前を呼ぶと、桃城の目の前に立った。
 そして、自分を見上げる桃城に、海堂は自分がされたように自分の唇を合わせていた。


「じゃあな」

 それだけ言うと海堂は行ってしまう。
 桃城は慌てて聞いた。

「どっ…どうしてこんなことっ…!!」

「さぁな」



 海堂の言葉は意外にも冷静だった。
 まるで、今起こっていた衝撃的な出来事が何もなかったかのように。
 桃城は我を忘れて抱きついた。



「海堂っ!!」

「はっ離せ。俺は帰るんだよ!!」

「離さねぇ!!」
「離せ!!」
「もう離さねぇ!!」



 桃城は海堂を力強くぎゅっと抱きしめたまま、顔を近付けた。顔を逸らす海堂の唇に。
 そして、先程のとは比べ物にならない程濃厚なディープキスを続けた。舌を絡め合い、息が出来ない程激しいその蕩け合い。


 桃城と海堂が抱き合い、何度も止まることなくキスする姿は何とも妖艶であった。

 青白い月明かりが灯す中、暫くの間静寂が漂うその場所は、鈴虫の鳴き声に混じって二人の荒い息遣いが響き渡っていた。


>>>祭りの音色4










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薫ーvv(萌)薫ちゃーん!!(やめれ)ちょっと大人な桃と、
初々しい薫大好きです!!最近、乾海より桃海のほうが燃えるんだよー・・・(笑)
なんだろう。乾のときより、桃といるときのほうが薫は可愛いからかな・・・v
ちなみにこのサイトは不二中心です。