When You Wish Upon A Star3 -星に願いを- 
2002.10.17


機内サービスに喜び、しばらくは外の景色を楽しんでいた英二だったけど、
朝も早かったしウトウトしてたから、僕は『少し寝たら?』と小声で声を掛けた。
すると英二は、『うにゃぁ〜』といかにも眠そうな声を発し、
しばしの眠りについていく。

添乗員さんに毛布を貰って、僕はそっと英二の身体に掛けてやった。

僕の肩にもたれかかって寝てる英二は、目を開けてる時より
はっきりと睫毛の長いことが分かる。大きく窪んだ瞼から垂れる長い睫毛。
本当英二はどこかの人形みたいな目をしてるよね。クス。
これが男だなんて嘘みたいに綺麗な顔立ち。


そんな英二を起こさないよう気を付けながら、
身体をまっすぐ戻して少し周りを出歩いてみることにした。

考えてみると皆にまだ朝の挨拶をしてなかったので、
それも兼ねて僕は通路に出た。

前から順に1組・2組と座っているから、僕達は丁度中間に居る。
ひとまずクラスが一番離れてる乾のところに向かおうか。


機体の後ろの方まで来ると、頭がひとつ突き出た生徒が居た。
クス。乾ってば相変わらず目立つよね。

しかもこんな所にまでノートパソコンを持って来てるのには
頭が上がらないよ。

「やぁ、おはよう。トイレかい?」
「ううん。ちょっと皆に挨拶しに来ただけだよ」
「なるほど」
「ねぇ、何やってるの?」
「これか?修学旅行といえども、帰ったらまた試合があるだろ。それのシュミレーションをちょっとな」
「クス。こんなところまでご苦労様」
「いや、俺はむしろ何かやってないと落ち着かないんでね」

「そっか。とりあえず挨拶しに来ただけだから、僕はこの辺で」
「あぁ…ちなみに菊丸は何してるんだ?」
「クス。寝てるよ」
「もっともらしいな。また奴のデータに入れておくよ」
「うん。またね」

乾と別れ、今度は元来た道を戻って行く。
自分のクラスのところまで来て英二の様子を伺うと、
まだ可愛い寝顔を見せ眠ったままだった。夢でも見てるんだろうか。
幸せそうな顔をして、何やらむにゃむにゃ言ってた。

クス。本当可愛いんだから、英二は。


それを見てひと安心すると、今度は前へと歩いて行く僕。

ちょっと先にはタカさんのクラスがある。
そして、そこにもやはり大きな身体をした生徒が居るんだ。
タカさんは列の真中あたりに居たから、端の男子に声を掛けて呼んで貰った。

「おはよう、タカさん」
「あっ不二、おはよ」
「昨日はよく眠れた?」
「うん。うちは寿司屋だから朝早いのもわりと慣れてるしね」
「そうだよね。お寿司屋さんの朝は早いんだよね」
「でもやっぱりまだ眠いけど。あはは」
「あ、ごめんね。眠いのに話し込んで」
「べっ別にそんなんじゃないよっ…!!不二は何も悪くないのにっ」
「うん。でも悪いから僕はそろそろ行くよ。まだ大石と手塚のとこ挨拶に行ってないからさ」
「そっか…じゃ、またね」
「うん。ゆっくり寝てね」
「あはは。ありがと、不二」

タカさんに手を振ってそこを離れると、今度は大石の元へと向かった。
さすがに大石は起きてるだろうと思ったら、何だかお疲れだったみたいで。
腕組んで寝てたから、起こさずにそっとしておいた。

学級委員っていろいろ気苦労多いんだろうな。
クス。お疲れ様です。


そして、僕は機体の更に前へと向かった。
青学は生徒数が多いから、結果的にこの飛行機も丸々貸切なんだけど、
一番後ろから一番前まで来るにはだいぶ距離がある。

何だか挨拶するだけでかなり時間かかっちゃったな。
そろそろ英二が目覚めてもおかしくない頃だよね…
早めに切り上げて戻らなきゃ。

1組のところまで来ると、ここでもすんなり手塚を見つけることが出来た。
でも、これから行く旅先の下準備なのか、前に座ってる先生達と
念入りに資料を見入ってた。

話掛けるにはとても入り込めるような雰囲気じゃ無かったから、
終わるまで僕は他の同級生達と世間話でもすることにしといた。


それから2、3分経った頃だろうか。

「あっ、終わったみたい。付き合ってくれてありがと」

話も終わったみたいだったので、
その男子達と離れ僕は最後の一人、手塚に声を掛けた。

「おはよう。ここでもお仕事?」
「見てたのか…あぁ、これから廻る見学地のことについてちょっとな」
「ふーん。これ?見せて」

手塚から先程見てた紙を渡されて見てみると、
今日の行動予定になっている函館周辺の資料だった。
観光案内や大まかな日程が事細かく書かれている。

「ねぇ、今日はバスで廻って見学するだけなんでしょ?」
「まぁな。初日の疲れも有るだろう。早めに宿舎に戻って明日に備えることになっている」
「クス。さすが生徒会長だね。皆の健康管理も考えてくれてるんだ」
「生徒代表として当然のことだろう」
「ふふ。明日からは私服でもいいけど、君はどっち着るの?」
「俺は制服だが?」
「僕もその方がいいと思うよ。だって君が普段着着てたら、出張に来てる社会人みたいだもの」
「お前な…」

僕が冗談を言うと、手塚は眉間にしわを寄せてムッとした表情を見せた。
だって本当のことじゃない。

「クス。嘘だよ」
「一つ言わせて貰うが、出張に来てる社会人ならスーツを着用していないとおかしいだろうが」
「クス。そうだね、ごもっともだよ」
「そんなことをここまで言いに来たのか?」
「ププっ…まさか。今日はまだ君に挨拶してないなぁと思ってさ」
「それでわざわざか?」
「うん。いけなかった?」
「いや…」
「なら良かった。ちょっとさっきは邪魔みたいだったから」
「済まない」
「クス。何で手塚が誤るの?僕はただ来たかったから来ただけだよ」
「そうか」
「もーう…そんな顔しないでよ」
「済まない…」
「誤るのも無しだってば」
「あぁ、悪かった…」

誤るのも無しだって言ってるのに、分かってないのか分かっててやってるのか、
表情ひとつ変えず素直に誤る手塚は無性に可笑しい。
僕は笑わずにいられなかった。

「ってだからぁ〜・・クスクス。手塚って本当天然だよね」
「天然とは何の事だ…?」
「天然バカのことだよ」
「俺が馬鹿だと言うのか?そうでもないぞ」
「ブブっ・・だからね、そういうところが…はぁ可笑しい……涙出てきたよ」
「お前の言っている意味が良く分からない」
「君は分からなくてもいいよ…可笑し過ぎるよ、手塚」

「そうなのか…初めて知った」

その言葉に僕は一瞬時が止まったように硬直してしまった。
君って天才!?天才だよ、手塚。何でこんなにもクソ真面目なんだか…

このままでは僕も可笑しくなってしまいそうだったので、
(いや、むしろもう可笑しくなってるかもしれないけど)
僕は抑えきれない笑いをぐっと堪え、どうにか手塚に別れを告げて
自分の席に戻ることにした。

だけど、戻る間も僕のお腹が休まることは無かった。
途中、いろんな女の子達に『大丈夫…?』と心配されたような気も
しないでもないけど、それでも僕の笑いは戻るまで続いていた。

案の定、ちょっとお怒り気味の英二の顔が目に入って、
ようやくソレは治まることになるが。


「もーう!不二どこ行ってたのさ!?俺居なくて心配したんだかんねっ!」
「ごめん、ごめん。皆のところに挨拶しに行ってただけだよ」
「トイレにも居ないしさっ…一言言ってくれれば良かったのに!」
「ごめんね。あんまり英二が気持ち良さそうに寝てたから、起こしちゃ悪いかなって思ったんだよ」
「ぶー…」
「拗ねないでよ、僕だって悪気は無いんだから」
「・・・」

ふてくされたような顔で英二は僕に無言の抗議を続ける。
でもいつものことだから、僕もその対処法は良く分かっていた。
英二の頬に両手をあて、英二に優しく声を掛けてやる。

「あんまり怒った顔してると可愛い顔が台無しだよ?」
「不二がいけないんだからっ…!」
「うん。僕がいけなかったんだ。ごめんね、英二」
「もういいよ…分かったから」


「クス。好きだよ、英二」
「うん…俺も」
「キスしようか?」
「うん…」


こうして僕達は今日も仲直り…と思ったんだけど。

「ちょっと待ーった!!」

タイミング良く邪魔が入ってしまった。

「さっきから俺が居ること、また忘れてるだろ!?」

そう、隣に座る小林だった。

「あぁ、ごめん。忘れてた」
「何だよ〜まだお前居たの?」
「ぶっ…!それはねぇだろ!!俺の席はここなんだよっ!!」
「君、邪魔だからあっち行っててよ。居ても良いけど口出ししないでくれるかな?クス」
「勝手にやってろ!!このバカップルがっ…」

小林は席を立ち、空いてる座席へと移って行った。
クス。ちょっと寂しそうな背中を僕達に見せてね。

「続きしようか」
「うん」

「仲直りの印だね…」
「にゃ・・」

僕の顔は英二の口元へと近付き、
そして座席と座席の間に身を隠すようにして僕達は口付けあった。

唇と唇が重なり合い、互いの舌が絡み合う。


途端、キャーとか言う甲高い声がどこからかと聞こえ、
きっと僕達の近くに居た奴らには気付かれてたんだろうけど、
敢えて僕は周りの反応に気づきながらも、
それを見せ付けるかのように彼にキスし続けた。


次第に英二は苦しそうな顔を見せるけど、
それでも僕は英二の身体を強く押して、止めようとはしなかった。


「んっ…」

僕も苦しくなり、ようやく僕らの顔が離れると
周囲から歓声と共に拍手があがり、一帯は妙な雰囲気になっていた。

「なんか思いっきり見られてたんですケド。」
「クス。だって僕、気づいててやったし」
「っておいっ!!」
「あはは、いいじゃない。初日からこんなに盛り上がって」
「そういう意味じゃないってーのっ!!」

僕達の修学旅行、一日目は幕を開けていく。
これから楽しい旅行の始まりなんだ。

そう思うと、喜ばずには居られない僕だった。


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