君と出会えたことで、
ボクの心は少しだけ軽くなりました。




あなたに会いたくて 2002.3.1



「不二君みーっけ!」
 
テスト中で部活も無い土曜日の帰り道。
ボクより数センチ高い茶髪の男が向こうから笑顔で走って来る。

声の主は、山吹中3年千石清純と言って、
女の子と占いが大好きな変な奴だ。

「千石君、どうしたの。何か用?」

ボクは大抵決まってこの言葉を返す。

「うーん、これといって用って用はないんだけど」
「クス。じゃぁなんで来たの?」
「会いたかったから。不二君に」

大きな口を更に横に伸ばして千石は笑った。
ことあるごとに彼は覗きこむように顔を近づけて、ボクに笑顔を見せる。

しかし、それは何かを企んでいるような笑みで、
ボクは素直に彼を受け入れられなかった。

「それって口説いてる?」

ボクはわざと皮肉めいた口調で吐く。

「世間一般にはそう言うかもね。ねっ手出してみて」

けれど、彼にそれは通用しない。

「なんで出さなきゃいけないかな。ボク、必要無いものは貰わない主義なんだ」
「不二君も必要なモノだって。これ。はい、あげる」

そう言ってボクの手に出されたのは、いわゆる行為の時に男が使うアレ。

「何これ」
「んー?ゴム。いるでしょ?」

そりゃいるけど。

「君にこんなものを貰うつもりは全然無いんだけどな」
「まぁそう言わずに貰っといてよ」

ボクはまた皮肉を込めた冷たい言葉を吐いてみる。

「千石君って天然なの?それともわざとバカっぽく振舞ってる?」

それでも千石という男はまた微笑を浮かべるんだ。

「どっちも違うんじゃない?」
「ボクは後者の方に思えて仕方ないんだけど」
「不二君がそう思うんだったら俺はそれでいーよ」
「変な奴・・・」

あぁ、こんな訳分からない奴今まで会ったことも無いよ。
ってボクが言えた立場じゃないか。

「はいはい〜不二君に質問〜!」
「・・・何?」
「不二君のその髪は地毛なんですかー!?」
「地毛だよ・・・元々色素薄いんだ。君は・・・違うよね」
「うん。俺のは色抜いてるであります。
ってこれ、うちのマネージャーの太一ってヤツのマネね!」
「・・・山吹って校則緩いんだ」
「うーん、なんてゆーか金持ちのぼっちゃん学校だからね。たくさん金も払ってるし
学校も厳しく言えないんだよ。ホラ、俺たちは大事な資金元な訳で」
「あぁなるほど。そういうことね」

ボクが納得していると、いつのまにか話が変わってた。
マイペースって言うか。

「でもさー、不二君絶対山吹のこの制服似合うと思うんだよね。
肌白いし、おぼっちゃんっぽいし。そうだ、制服交換しようよ」
「どこで着替えるの。それに第一、背幅が違うんだから合わないよ」
「あっそうか。そりゃそうだよね。うーん。じゃっ上だけ交換したいんだけど」
「・・・君には何言っても無駄みたいだね。ボクの皮肉も全く効かないなんて
手塚と越前に続いて3人目だよ」
「皮肉?そんなの不二君言ってた?俺全然分からなかったけど」
 
ホラ、またこんなところで微笑むんだ。
ここ、笑うところじゃないんじゃない?

「・・・分かったよ、でも上だけだからね?」
「オッケーオッケー。はい、俺の」
 
と千石は上着を脱いでボクに差し出してきた。
はぁ。何してるんだろう、ボク。

「ねぇ、不二君のも早く貸してよ」
「そんな急かさないでよ。もう・・・はい」

ボクは仕方なく自分の着ているものを脱いで千石に手渡す。

「んー☆不二君の制服、ちょっと不二君の匂いするね」
「ってちょっとっ!やっやめてよ、もしかして千石君ってアブノーマル!?」
「ううんー?まさか。不二君のだからだよ。不二君も俺の着てみて?」
「うん・・・」

ボクは千石の様子を伺いながら、とりあえずその真っ白の学ランに
袖を通すことにした。やっぱりボクには大きいよ。腕なんてブカブカじゃない。

「わっ激似合ってる!!やっぱ不二君こっちのが可愛いよっ!!
サイズ合ってなくてブカブカなのもまたカワイイ〜っ!!」
 
最初からそれが目的ですか。信じられない・・・何こいつ。
 
「そりゃどうも」
  
そんな感じでボクはまた皮肉ってしまう。

「あーでも、上と下で黒と白って変だよな。オセロみたいでさ」
「君が言い出したんじゃない。あのさぁ、千石君。ボク、帰りたいんだけど」

掴み所の無いこいつからとにかく逃げたかった。関わりたくなかった。
次第にボクはそんな感情をあからさまに態度に出していた。

「不二君、なんか俺のこと嫌ってる?言葉チクチクするんだけど」
「別に。ボクはただ帰りたいだけ」
「・・・嘘」
「嘘じゃないよ」
「嘘だね」
「嘘じゃない」
「いーや、絶対嘘」
 

うん、君の言う通りだよ。ボクは君が嫌いだ。
って言うより苦手って言ったほうが正しい。

いつも突然やって来てはボクの感情を狂わせて。
何でボクに執着するの?

もう放っておいてよ。



構わないでよ。






「君の言う通りそれでもいいからいい加減帰らせて」
「不二君ってさ、人の好き嫌いはっきりしてるでしょ」

ボクは確信を突いてきたその言葉を聞き流しながら歩き出した。
千石もすかさず後を付いて来る。

「だったら何?いけない?曖昧な態度で上手く取り繕って
はっきりしない奴よりよっぽど良いと思うけどね」
「俺はそういうタイプじゃないから分かんないけど、
人生気楽にやってた方が楽しいことだってあると思うよ〜?」

「気休めはよしてくれないかな。
君こそ嫌いな奴にもそうやってヘラヘラしてて楽しい?」

「だって今は嫌いな奴かもしれないけど、話してるうちに仲良くなるかもしれないじゃん。
それって勿体無くない?そこで自分の友達一人無くしてるんだよ?」
「全くもって羨ましいよ。そんなプラス思考で物事考えられて」

「不二君、何そんなに自分にひっかかってるの・・・?そんなに自分が嫌い?」
「・・・」

君にとやかく言われる筋合いなんてないんだけど。

「俺は自分のこと好きだよ?自分の心に正直でいるのが俺のポリシー」
「言うことはそれだけ?制服返して。はい、君の制服。じゃぁボク、帰るからね」

「待ってよ。俺、用なんてないって言ったけど、ホントは不二君に会いたかったんだ!
毎日ずっと・・・!今日も不二君に会うために来たんだからっ!」
「・・・」

ボクは彼の言葉を聞き入れてるくせに、無言でその場を去ろうとしてる。
最低だ。自分でも嫌気がさすよ。

「辛いときは泣いてもいいんだよ・・・?」

何。なんで君にそんなこと言われなきゃいけないワケ?
次の瞬間、彼の顔が目の前にあった。

「んっ・・・!!」

やっやだ!やめてよっ・・・!

「不二君、俺、いつでも胸貸すよ?不二君が必要な時いつでも。
だから不二君ももっと気緩めてみようよ。泣きたいときは思いっきり泣いて、
楽しいときは思いっきり楽しもうよ。ねっ・・・?」
「千石君・・・」

確かにボクは皆に期待された抜かりのない天才を演じるために、
ずっと気を張り詰めてた。

だけど、それはボクであってボクでは無い。


本当は心の奥底で君のような生き方を羨ましくも思ってたんだ。
クス。ずっと言わなかったけどね・・・


彼の真っ直ぐな優しいその言葉で、胸に込み上げて来たものが
ふっと涙となって零れ落ちた。

ボクは少しの間、
彼の胸で千石君に抱きしめられながら泣いてしまった。

クス。こんな変な奴会ったこともないよ。



ありがと・・・


ボクは苦手だってだけで君のこと見ようともしなかったんだね。
 
ごめん。ごめんね、千石君。




ボクは翌週の月曜日、山吹の校門に立っていた。

「あれ!?不二君、何してんの!?こんなとこで!」
「別に用はなかったんだけどね・・・」
 
なんて。本当は君ともう少し一緒にいたかったんだ。
君に・・・あなたに会いたくて。


ボクの重苦しかった心を軽くしてくれた千石君に・・・

心地良い風が、ボクを君のいるその場所に運んでくれたみたいだった。

「じゃっこれからデートでもしようか」

そう言うと君はまた笑った。
ボクもつられて笑顔を浮かべていた。

「うん」


あなたに会いたくて。

ボクが今日来たのは、ただそれだけでした。











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オフラインでは初めてのゲスト原稿でした。サイトにあげるものが無いので
こんなものを載っけてみたりして。ってかヘボっ!かなりヘボイね〜・・・